早速ですが、今回のタイトルどおり、日本語の動詞 「わかる」について考えてください。
これは「食べる」「飲む」「する」のような active verb だと思いますか?
答えは、いいえ。「わかる」は active verb ではありません。「ある」「いる」「つかれる」などの動詞もactive verb ではありません。これらが同じグループである感覚がつかめるでしょうか。この感覚がつかめる場合、日本語の文法の理解はらくになります。つかめない場合は、そういうものだと受け入れてください。
active verb の最も単純な文は次のようになります。
私は そばを 食べる。
私は お茶を 飲む。
私は テニスを する。でも、「わかる」はactive verb ではないので、「私は 日本語を わかる。」とは言いません。
日本語が わかる。これが正しい文です。カジュアルに話す時は、「日本語 わかる?」「わかるよ。」とか、「これ わかった?」「わからない。」などとなるため、助詞は「を」か「が」か、どちらが省略されているのか、見えなくなっていますね。でも、本当は「が」が隠れているのです。
村上春樹(むらかみ はるき)の小説の英訳をたくさんしている Jay Rubin さんは彼の著書 "Making sense of Japanese" (*1) の中で、次のように説明しています。
People don't wakaru things; things themselves do wakaru: they "are clear" or they "are understandable,"この説明にしたがうと、「日本語がわかる」= "Japanese is clear/ understandable." ですね。このように見ると、どうして「日本語をわかる」が正しくないかが、はっきりします。
それでは、「私は 日本語が わかる。」の「私は」はどうやって考えればいいんですか?という質問が来そうですね。
私は/には 日本語が わかる。= As for me/ To me, Japanese is understandable.Jay Rubin さんもこのように解説しています。
そして、「わかる」はとても多用される単語です。私もここまで書いて来て、何度も「わかる」を使いそうになりましたが、あえて他の動詞を使ってみました。うすいピンクでマークしてある動詞は「わかる」で置き変えることができます。
国語辞典(*2) の「わかる」の定義を見てみましょう。
①理解する
例)わけがわからない。(It doesn't make sense.)
例)あなたの言いたいことは よくわかる。(What you mean is understandable.)
②事実がはっきりする、判明する
例)犯人の身元がわかる。(find out the criminal's identity.)
例)問題の答えがわかる。(discover the answer to the question.)"Understandable" または "understand" だけではないことが明らかです。これらに加えて、"learn" や "realize" などになる場合もあります。
また、「わかる」はactive verb ではないことから、可能形(かのうけい、potential form) はありません。「わかれる」は存在しません。"I can understand" と言いたいなら、「理解できる」を使いましょう。(補足:「わかる」自体が "I can understand" になる場合もあります。)
「わかる」の使い方がわかりましたか?
*1 "Making sense of Japanese, What the textbooks don't tell you", Jay Rubin, Kodansha USA, Inc.
*2 『デジタル大辞泉』、小学館
6 件のコメント:
説明ありがとう!「わかる」と「しる」の使い方や違いは日本語の学習者にはとても難しい。
waldrumpus さん、読んでくれてありがとう。
そうですね、「わかる」と「知る」の違いも難しいですよね。今度まとめて、書いてみます。
少し前の投稿に失礼します。
この説明は私の認識とほぼぴったり一致しているのですが、ただ一つ不思議に思えるのは、「わかってください」という形です。時々耳にする言葉で、ネットで調べても多く出てきます。しかし、岡本先生の言う通り、「人が物事をわかる」のではなく、「物事が人にとってわかる」のですから、人に対して「わかってくれ」と指示するのはおかしいのではないだろうか、と悩んだりします。岡本先生はどう思いますか?
とあるスウェーデン人さん、おもしろい指摘ですね。
今月の投稿にも「わかる」について書きました。その中の例文の一つは「(あなたは)自分が何をしているか、わかっているの?」です。(投稿内容のポイントとは関係がありませんが)
「わかる」は現在の状態を表す動詞にも関わらず、「わかっている」という現在進行形のような使い方もあります。「わかる」と「わかっている」の違いは「わかっている」は「今、していることや言っていることなどを理解している」という「今」が強調されているのだと思います。
このような使い分けをするのは「わかる」という行為が人の行動の部分もあると考えられているのかもしれませんね。それで、「わかっているの?」と聞いたり、「わかってください」と言ったりするのかな~と考えています。
どう思いますか?
回答ありがとうございます!
つまり、「わかっている」「わかってください」はそれぞれ「理解している」「理解してください」という意味になると考えていいでしょうか?確かに「理解する」は(私の感覚では)他動詞なのでそれなら辻褄が合いますね。
とあるスウェーデン人さん、
私もそう思います!
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