さて、今日はコロナウィルス関連のニュースを見ていて、気になった表現について、考えてみます。最近はあまりチェックしていないのですが、東京で緊急事態宣言が出た直後は、東京都知事の都民に向けての会見をよくニュースで見ていました。その時に、都知事がいつも「都民の皆さまに協力していただきたい」と言っていました。これは、本当に良く使う普通の表現なのですが、私は日本語教師として、以下のことを考えました。
「~てもらう」「~ていただく」の基本の意味:他人の好意によって、自分が利益をうける、To receive benefit from someone's actionこの基本の意味にしたがうなら、都知事の「皆さまに協力していただきたい」は、「都民がマスクをしたり、家にいるようにしたりすることで、都知事にとって良いことがある」という理解は正しいのでしょうか?私はそう考えました。
ちがいますね。都知事は彼女の利益のために、みんなからの協力を求めているわけではありません。みんなが協力すれば、それはみんなの利益になる、つまりウィルスへの感染が減って安全に生活できるようになるという意味ですね。
では、別の例も紹介します。これもコロナウィルスに関するニュースを見ていて、あれ?と思った文です。日本では今、ジョギングをする時でもマスクをするようにすすめられています。このニュースで、ある大学教授がマスクをしながら走るのは、暑くなるし、呼吸も難しくなるので、ゆっくり走ることをすすめていました。彼は「ゆっくり走っていただくことが、体に安全だ」というようなことを言っていました。
この「走っていただく」の使い方も、日本語的にとても自然ですが、「どこかの道をジョギングしている不特定の人がゆっくり走ることによって、教授の利益になる」という理解は変ですね?
教授はランナーたちが彼の提案を実行することを望んでいます。「マスクを付けて、ゆっくり走れば、それはランナーの体にとって良いことですよ。ランナーの皆さん、私の言ったことを信じてください」という意味です。
都知事にしても、この教授にしても、自分の利益のために「いただく」を使っているのではなく、「私が言ったことを信じて、それをやってください」というリクエストなのです。「てもらう」「ていただく」のバリエーション的な使い方だと思います。
さきほども書きましたが、このバリエーションは頻繁に使われているので、この使い方を頭にとめておいて、「てもらう」「ていただく」を聞いた時に話し手の意図を考えてみるといいと思います。