ところで、以前に「そう・らしい・よう」について書きましたが、今回は「そう」についてもう少し書いてみます。「~そう」と "look ...." を比べてみます。
例えば、「この料理はおいしそう。」という日本語を英語に訳すと、一般的には "This dish looks delicious." となりますね。
実は「~そう」と "look ...." には違いがあると私は思っています。同じ場合もあるけど、必ずしも同じではないのです。「そう」の定義は以下の通りです。
そう: express the speaker's conjecture based on visual information. It concerns an event which might take place in the future or the present state of someone or something (*1)
つまり、今見ているものの状態から、 そのものの本質やこれから起こる可能性を推測する場合に使うのではないでしょうか。
例1)この料理はおいしそう。:食べる前に料理を見て、これを食べたら「おいしいだろうな」と思う。
例2) この本は難しそう。:本を開いたら、漢字が多くて、この本を読むのは難しいという可能性があると思う。
例3) 外は寒そう。:朝起きて、窓を開けて、雪が降っていたら、外の気温は低いだろうと推測する。これに対して、英語の "looks + adjective" は今見ているものがどう見えているかを表すのに使うのだと思います。
look: appear, give the impression of being or doing something (*2)そのため、英語ではきれいな花を見て、"This looks pretty." と言ったり、大きい家を見て、"This looks big." と言いますね。でも、これらを「きれいそう。」や「大きそう。」と訳すのは間違いです。
なぜなら、ある花を見て、それをきれいだと思ったら、日本語では「この花はきれいです。」と言うからです。きれいなものを直接見ているのに、「この花はきれいだろう」という思考をしません。同様に、目の前に大きいものがあれば、可能性や推測は必要がなくて、「これは大きいです。」とはっきり言います。
ですから、"She looks cute." は「彼女はかわいいです。」となります。かわいい人が目の前にいれば、「かわいいです」と断言します。くれぐれも「彼女はかわいそうだね。」と言わないようにしてください。これは間違いだけでなく、違う意味になってしまうからです。「かわいそうな」という形容詞の意味は "pitiful" で、「彼女はかわいそうだね。」は "I feel pity for her." です。
これに関係して、知り合いのアメリカ人からおもしろい話を聞いたことがあります。彼女の息子が公園で転んで、けがをして、大泣きをしていた時に、通りがかった日本人が泣いている息子に「かわいい~」と言っていたそうです。「こんな時でも日本人は外国人の子どもをかわいいと感じるのか」と彼女は思ったそうです。
この話を聞いた時、私は「違う」と思いました。実際日本人は「かわいそう~」と言っていたはずです。痛がっている子どもを気の毒に思って、そう言ったのです。でも、アメリカ人のお母さんは「かわい」と聞こえたので、「かわいい」と言われていると思ったのでしょう。おかしいですね。
*1 "A dictionary of Basic Japanese Grammar", Seiichi Makino and Michio Tsutsui, The Japan Times
*2 Oxford Advanced Learner's Dictionary", Oxford University Press UK
12 件のコメント:
ありがとうございます。とても面白い話ですよ!
ロシア人より。o(^▽^)o
Igor さん、コメントありがとう。ロシアにも春が来ましたか?「かわいい子ども」と「かわいそうな子ども」、意味がとても違いますね。
他の質問などがあれば、教えてくださいね。
ありがとうございます!いつも岡本さんの興味深い記事を読ませていただきます。
この違いを考えてもみませんでした!私の母国語であるノルウェー語では、英語と同じように「This looks pretty」と言えますが、自分は日本語を勉強しているせいか、最近不自然に聞こえるようになってきました。
Michaelさん、コメントありがとうございます。
ロシアの方の次はノルウェーの方からコメントをもらって、うれしいです。多様な国の方たちが日本語を勉強しているのですね!
「そう=look」と簡単に説明できそうなのですが、100%同じではないというのが面白いですよね。
とてもいい記事でありがとうございます
私はあまりブログを読まないタイプですが、この記事を見つけて「日本語の勉強に役に立つだろう」かと思って読んでしまいました。でもこんなにおもしろいとは思わなかったです!岡本さんの説明や面白い話で読みながら楽しんでいました。また読みにきます!
「かわいく見える」と言えば英語の「she looks pretty」に当たるんじゃないですか。
匿名の読者さん、おほめのコメントありがとう。
興味深い記事が書けるように、これからもテーマを探していきますよ。
Casey さん、いい質問ですね。
「彼女はかわいく見える」は「彼女は実際はかわいくないのに、かわいい印象がある。」という意味です。
だから、女性が聞いたら、嬉しくないし、怒ってしまうかもしれませんね。
話し手が見ている物の印象を表していますが、実際はその印象とは違うということも含んでいます。
例)この部屋は小さいのに、設計とインテリアのおかげで、広く見える。
結局、You look pretty. じゃなくて、You are prety.(きれいだよ)と言った方が良いようですね!
日本語学校で教えた時、「きれいそう」という間違いがなかなか直らなかった学生がいたのですが、もしかしたらlookと同じように考えていたのかもしれませんね!
この記事を読んで、私も目から鱗でした!!ありがとうございました!
日本語教師の方からのコメントもうれしいですね。
人間の脳が自分の言語を基に外国語を考えるのは自然なことですから、英語だったら「こういうだろうな」という視点をいつも持つようにしています。
おかもと先生、
先生の英語のブログから移したりんです。
この記事は役に立ちました。
ありがとう!
ーりん
りんさん、こっちも読んでくれてありがとう。
「英語のブログから移った」ですね。「移る」は自動詞、「移す」は他動詞です!
コメントを投稿