2010年1月15日金曜日

言った vs 言ってた

寒い日が続きますね。他の場所に比べれば、東京は暖かいと思いますが、それでも、寒い!冬になると、読みたくなる本があります。それは村上春樹(むらかみ はるき)の『羊をめぐる冒険』(A wild sheep chase) 。どんどん寒くなって、北海道に雪がもうすぐつもり始めるという季節の話です。暖かい部屋の中やベッドの中で、この本を読むのが好きです。 突然ですが、ここでその本から少し引用をしてみます。

「よくここの場所がわかりましたね」と僕は言ってみた

「我々には大抵のことがわかる」と男は言った

「羊の居場所以外はね」と僕は言った

「そういうことだよ」と男は言った

本の中の会話は普通、こういう文体で書かれています。「言う」の過去形「言った」が使われます。他の作家でも同じです。 しかし、実際の会話、例えば、私が山田さんと話している場合は次のようになります。

私: 山田さん、明日の会議に出席する?

山田: うん、昨日、出席するって言ったよね。

私: そっか。じゃあ、田中さんは?

山田: 出席しないって言ってた

私: あっ、ごめん。今、何て言った

山田: 田中さんは出席しないって言ったんだよ。

ここで、「言った」と「言ってた」が両方使われています「言ってた」は「言っている」の過去形、「言っていた」ですが、早く話す時に「い」が取れてしまいます。この使い分けはどうやってしているのでしょう?それは、主語つまり、言った人によって変わります。では、わかりやすくするために、上の会話に主語を入れてみましょう。

私: 山田さん、明日の会議に出席する?

山田: うん、昨日、出席するって私は言ったよね。

私: そっか。じゃあ、田中さんは?

山田: 出席しないって田中さんは言ってた。(*1)

私: あっ、ごめん。今、何てあなたは言った?

山田: 田中さんは出席しないって私は言ったんだよ。

主語つまり、言った人(注意:出席する人ではありません)が「私」か」「あなた」の場合は「言った」を使います。他の人(第三者)が言ったことを第二者に伝える場合には、「言ってた」を使います。その使い分けをすることで、主語を省略する日本語の会話でも、動詞の形から、「だれが言ったか」わかるのです。

本の文体は、書く人も読む人もその会話の中には含まれていないので、登場人物が言ったことをそのまま作家が書くだけです。

また、*1の文は「田中さんは言ってた」の部分を省略して、「出席しないって」だけでもOKです。「って」が他の人から聞いたことを伝える(伝聞‐でんぶん)という役割があります。あるいは、「出席しないそうです」と言うと、ていねいな伝聞になります。 「出席しないって」という主語無し、動詞無しで話される日本人の会話についていけるようになれば、すごいですね。


16 件のコメント:

Alex さんのコメント...

ありがとう!疑問なし明らかに説明してくださいました。やはりそういった省略は日本語の魅力の一つのポイントです。

Minako Okamoto さんのコメント...

「省略は日本語の魅力」とはおもしろい意見ですね。
省略の文を理解するためには、会話の状況をはあくすることが大切ですね。だれが だれについて、話しているとか。
動詞に敬語を使ってるのか、「あげる、もらう、くれる」のどれを使ってるのか、なども主語のヒントになるでしょう。

ジョン さんのコメント...

なるほど!さすが岡本さんだけのことがあって、例をわかり易く説明してくれますよね。いい勉強になりました!

Minako Okamoto さんのコメント...

Jonathan, うれしいコメントありがとう。
でも、ちょっと日本語を直してもいいですか?
「岡本さんのことだけあって」が正解です:)
それ以外は完璧です!

ジョン さんのコメント...

そうだったんですね!訂正ありがとう!久しぶりにこんな文法を使おうと思ったらああなってしまったんです。さらにいい勉強!〈笑〉どうもどうも。

dabisu さんのコメント...

ありがとうございます!本当にこの説明はめっちゃ役立つです。今の学校の先生、どうしてこの落とし穴を教えてくれないんだろうか?(^^)

「言う」動詞以外に、他の動詞の「て形」と「ていた形」は同じニュアンスがありますか?

Minako Okamoto さんのコメント...

Jonathon, 色々な表現を使ってみることが大切だよ!「だけあって」は日本語教師からすると、わかりやすく意味を説明するのが難しい表現の一つです。

Dabisu san,
「言う」の他には「思う」も同じですよ。
①AさんとBさんは結婚すると(私は)思う。
②AさんとBさんは結婚すると(あなたは)思う?
③AさんとBさんは結婚すると(山田さんは)思っている。

さらに、過去形になると、
①AさんとBさんは結婚すると(私は)思った/思ってた。(両方OK)
②AさんとBさんは結婚すると(あなたは)思った?/思ってた?(両方OK)
③AさんとBさんは結婚すると(山田さんは)思ってた。(一つだけ)

*注意「思った」と「思ってた」の時間のニュアンスは違います。

dabisu さんのコメント...

本当にありがとうございます。
これから覚えておいて使いますよ

Unknown さんのコメント...

すごくいいブログですね!先週岡本さんのブログを始めて知って、もう全部の投稿を読みました。いろいろな文法を分かりやすく説明してくれてありがとうございます。非常に勉強になりました。

次の投稿も楽しみです。

そして、記事のリクエストをしてもしていいですか?私にとって、英語のto tryは日本語に訳しにくいのです。たとえば、Try to goは、どう訳しますか。「行ってみる」か「行こうとする」、「行くようにする」、「行けるようにする」、「試す」?いつも迷っています。時間があるときに、to tryのニュアンスも説明してもらっていいですか? :)

とにかく、いろいろありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

Minako Okamoto さんのコメント...

Simonさん、はじめまして。このブログがお役に立てて、うれしいです。
"try"は確かに日本語にするのが難しいですよね。「~てみる」「~ようにする」など、整理してみますので、ちょっと待っていてください。できるだけ早く、まとめて書いてみます。

Unknown さんのコメント...

わかりやすいです!ありがとうございます、勉強になりました😊

Minako Okamoto さんのコメント...

うわっ!!10年前の投稿にコメントしてくれて、ありがとう!!

Oleksandr さんのコメント...

実はOkamoto先生の投稿は古いも新しい僕と日本語を習う友達にとても人気です。
便利で分かり安いです。

Minako Okamoto さんのコメント...

Oleksandr さん、コメントありがとうございます。このブログがみなさんの役に立てて、うれしいです!

Unknown さんのコメント...

助かりました・・・
外国人ですが言った と 言ってたについての全く違いがなんなのか知らなくて苦しそうでしたけど、あなたの文のおかげでやっと!理解できました!
ありがおうございます!

Minako Okamoto さんのコメント...

コメントありがとうございます。
「苦しそう」じゃなくて、「つらかった」や「こまっていた」がいいかな?
これからも勉強がんばってください!

直訳できない "It's a beautiful day!"

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