2008年11月18日火曜日

日本語の味わい方

ワインと日本酒好きのイタリア人のAさんと、アメリカ人のMさん、この二人のおかげで、日本語のレッスンを通して、ワインと日本酒の知識を私もたくさん学びました。今ではワイン/日本酒テイスティングは私の趣味の一つになりましたが、二人の敏感な味覚には感心するばかりで、私にはソムリエのような才能はありません。

ワインの味わいのチェックポイントは4つあります。①甘味、②酸味、③渋み(タンニン)、④アルコール度。この4つに注目して、味のバランスを評価すると言われています。

では、これが日本語になると、どうなるでしょうか?日本語の謎を解くための私なりのチェックポイントを紹介したいと思います。「あげる」と「くれる」の違いは何?それはどういう場合に使うの?こういう質問があれば、以下のチェックポイントから、その文を分析してみてください。


  1. 主語は物か、人か


  2. 文は行動を表しているか、状態を表しているか (他動詞か、自動詞か)


  3. 主語は一人称(私)/二人称(あなた)か、三人称(彼、彼女、彼たちなど)か


  4. 主観的な文か、客観的な文か


  5. 既知(すでに知っていること)か、未知(まだ知らないこと)

1. 主語は物か、人か。これによって、動詞が変わることがありますね。みなさんが知っているとおり、「物はある」「人はいる」はこの違いですね。

A) 私の家は 東京に ある

B) 私は 東京に いる



2.動詞は行動を表しているか、状態を表しているか。日本語では言いたいことの視点が「行動」にあるか、「行動の結果、つまり行動の後の状態」にあるかで、表現が変わることがよくあります。結局、どちらの文も同じことについて言っているので、どちらも正しいのですが、視点が違うと、文から受ける印象が変わります。

例えば、週末に家にお客さんが来るので、その前にワインを買った場合。

A) 今日 ワインを 買った

B) ワインは もう 買ってある

Aは単純ですね。「私はワインを買った」という私の行動を表わしているだけです。Bは「私はワインを買って、それは今、家にある」という買った後の状態に視点が置かれています。話し手は「買った」という行動よりも、「今ある」という結果や状態の方を強調したいのだと思います。

これと関連して、動詞が他動詞か、自動詞か、というポイントもあります。「する」と「なる」が一番わかりやすい例ですから、「~ことにする」(decide to X)と「~ことになる」(X is decided)で考えてみましょう。

A) 私は 来月 引っ越すことに しました

B) 私は 来月 引っ越すことに なりました

AもBも「来月 引っ越す」ことを言いたいのですが、ニュアンスは違います。他動詞の「します」(A)は、話し手の行動を表していますから、「私が決めました」という話し手の意思が感じられます。一方、自動詞の「なります」は行動の後の変化や状態を表しますから、Bは決心の後の結果に視点が置かれています。それで、決心を発表しているAの感じとは違って、結果を報告している感じが強いのです。


3. 主語は一人称/二人称か、三人称か。例えば、「~たい」と「~たがる」は両方、"want to"の意味がありますが、その違いは主語がだれか?
A) 明日 私は 買い物を したい

B) 明日 彼は 映画を 見たがっている

主語が一人称の場合は「たい」(A)を 使います。二人称も「たい」を使うので、「あなたは 何を したい?」と質問ができます。でも、三人称の場合は「たがる」(B)を使います。



4. 主観的な文か、客観的な文か。つまり、主観的とは「話し手の考え方や意思が表わされている文」で、客観的とは「話し手だけではなくて、他の人たちも含めて、共通の考え方や意思が表わされている文」です。例えば、「~たばかり」と「~たところ」は "have just done"の意味がありますが、使い方は全く同じという訳ではありません。

A) 私は 先月 日本に 来たばかりです。

B) 私は 今 家に 帰ったところです

Bは「今」がキーワードです。「今(例えば、3分前に)、家に帰った」というのはだれにとっても、終わったばかりの行動です。でも、Aの「先月」は 「少し前ですね」と考える人もいれば、「一か月も前ですか、ずいぶん前ですね」と考える人もいるでしょう。つまり、Aの「~たばかり」には過ぎた時間に対しての話し手の感じ方が表わされています。

ですから、「一年前に 日本に来たばかりです。」という文もありえますね。

一方、「三時間前に 家に帰ったところです。」は「三時間前はずいぶん前だ」と思う人もいるので、おかしい文になってしまいます。



5. 既知か、未知か。では、「そうですか」「そうですね」「そうですよ」を比べてみましょう。

A) 山田:次の週末の天気は 晴れですよ。 田中:そうです

B) 山田:次の週末の天気は 晴れですよ。 田中:そうです

C) 山田:次の週末の天気は 晴れですよね。 田中:そうです

この三つの中で、田中さんが週末の天気を知らない場合の答えはどれでしょうか?答えは、質問の「か」を使っているA「そうですか」です。自分が知らない情報が与えられたので、田中さんは「そうですか?」と山田さんに聞いているのです。

Bは田中が知っている情報に対して、同意を表しています。

Cも田中が知っている情報に対して、山田から同意を求められて、同意を表しています。



以上、簡単な例をあげて、説明しましたが、なかなか複雑な表現もこれらの視点から考えると、「はっ!」と気がつくことがよくありますから、皆さんもやってみてください。

6 件のコメント:

Jonathan さんのコメント...

また面白い記事を書いてくださいましたね。ありがとうございます。いい勉強になりました。

僕が思うに、「~てある」の文型が面白いです。通っていた日本語学校の授業でこの文型に初めて接触したとき、「なぜ受身形は使わないのかな」と不思議に思っていました。

つまり
「ワインは もう 買ってある。」
より
「ワインは もう 買われてある。」か
「ワインは もう 買われている。」

というのが日本語初心者の僕にとって自然に聞こえていたわけですね。「買ってある」の文だと、途中で主語が変わるから、と思っていました。使えるようになりましたが、今でも主語が変わるんじゃない?と思います。

「私はワインを買った。ワインは家にある。」
「ワインは買われて、家にある。」

ふむ。今でも不思議ですね。これはやはり特別な文型かもしれませんね。

minako okamoto さんのコメント...

Jonathan,こんにちは。
たしかに、「ワインは買ってある」の文はおもしろいですよね。人の行動も言いたいし、物の状態も言いたいという気持ちなんでしょうかね?
関連表現では「私はワインを買っておいた」もありますね。この文からはどんな印象を受けますか?
それにしても、ジョナサンさんの日本語はとても上手ですね。感心しています。

Ken さんのコメント...

Okamotoさん、はじめまして。日本語学習者向きの日記を創立してくださって、本当にありがとうございました。随分参考になりました。

三人称の「たがる」についての質問がありますが。日常生活であまり使われていない、と過去に日本人の友達によく言われましたが、私にはそうではなさそうです。

使われているのか、いないのかは、どちらが正解なんでしょうか?

minako okamoto さんのコメント...

Kenさん、コメントありがとうございます。
「たがる」はよく使っていると思いますよ。例えば、「あの人は彼女と話したがっているみたい」とか。
現在の様子を表すので、「~たがっている」の形を使いますね。
他には「彼女と話したそう」、「彼女と話したいみたい」なども使えます。
時々、日本人は教科書に書いてある日本語は日常会話で使わないと言いますが、私はそうは思いません。教科書の表現が基本にあって、それが話し言葉に変化しているだけだと思います。
例えば、「勉強しなければなりません」という表現はいつも使われる訳じゃありませんが、それが変化して、「勉強しなくちゃ」とか、「勉強しないと」とかを使っているんですね。
日本人はそういう点にあまり気が付いていないと思います。

pushindawood さんのコメント...

岡本先生の分かりやすい説明のお陰でやっと「〜てある」の文系が理解を出来ました。

「Aは単純ですね。「私はワインを買った」という私の行動を表わしているだけです。Bは「私はワインを買って、それは今、家にある」という買った後の状態に視点が置かれています。」を読んで、「あっ、なるほど!」と快哉を叫びました。
本当にありがとうございます。いい勉強になりました。

Minako Okamoto さんのコメント...

pushindawood san,
わかってもらえて、よかったです。
例えば、「夜ご飯を作った」「夜ご飯ができた」というのも話し手の視点が違います。「作った」はその行為に、「できた」は結果や状態に視点が置かれていますね。